米澤穂信「愚者のエンドロール」感想 『女帝』事件
著者
刊行
2002年
あらすじ
古典部の面々は、2年F組の生徒が文化祭に向けて自主制作したミステリー映画の試写会へと招かれる。しかし、その映画は、密室で殺害された少年を発見した場面を最後に尻切れとんぼで終わっていた。古典部は2年F組の"入須冬実"から依頼され、映画の結末探しに乗り出す。
登場人物
入須冬美・・・2年F組の生徒、『女帝』
本郷真由・・・2年F組の生徒、脚本を制作
江波倉子・・・2年F組の生徒、探偵役(案内役)
中城順哉・・・2年F組の生徒、助監督
羽場智博・・・2年F組の生徒、小道具班
沢木口美崎・・・2年F組の生徒、広報班
感想
〈古典部〉シリーズを2冊読んで見えてきた折木奉太郎という人物は、自らの足を使って証拠を集めていくという探偵像ではなく、他人の推理を元にそこから必要な情報を取捨選択し自らの論理を組み立てていくという、"安楽椅子探偵"とまではいかないけれども自分で動くことはあまり多くない言うなれば"省エネ探偵"といったところでしょうか。
また、推理小説における"面白さ"とは、犯人の考えた"トリックそのものの意外性"だけにあるのではなく、ストーリーの展開をひねることによってもたらされる"トリックの見せ方"によって生み出されるものもあるのだと感じました。
さて、次はTwitterでフォロワーさんに面白いと教えてもらった『クドリャフカの順番』です。クドリャフカといえば個人的に「リトルバスターズ!」を思い出すんですけど、『氷菓』そしてこの『愚者のエンドロール』とかなり気に入っているので期待して読みたいと思います。
メモ
『愚者』
愚者:タロットの大アルカナに属するカードの1枚。
・正位置の意味
自由、型にはまらない、無邪気、純粋、天真爛漫、可能性、発想力、天才。
・逆位置の意味
軽率、わがまま、落ちこぼれ。
アーサー・エドワード・ウェイトのタロット図解における解説では「夢想・愚行・極端・熱狂」を意味するとされる。
『叙述トリック』
叙述トリック:小説という形式自体が持つ暗黙の前提や、偏見を利用したトリック。典型的な例としては、前提条件として記述される文章は、地の文や形式において無批判に鵜呑みにしてもいいという認識を逆手にとったものが多い。登場人物の話し方や名前で性別や年齢を誤認させる、作中作(劇中劇)を交える、無断で章ごと(時には段落ごと)の時系列を変えることで誤認させるなどがある。
映像作品においても、上記のように無断で時系列を交える、劇中劇を交える、その作品の形式を逆に利用する(倒叙物と見せかけて真犯人が別にいる、など)などがしばしば用いられる。
推理小説の歴史では、アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』を巡って大きなフェア・アンフェア論争が起こったのが有名である。広義の意味でこの作品が叙述トリックの元祖というわけではないが、この騒動によって叙述トリックが推理小説の1ジャンルとして認知されるようになった。
基本的に、著者が読者に仕掛けるトリックを指すものではあるが、作中に登場した捜査資料・手記といった文章を直接的に明示すること(他の探偵の捜査記録等を原文のまま全部引用するというような様式)によって、作中の探偵と読者が同一の手がかりを得るという、本格推理小説の要請と叙述トリックの面白みを問題なく両立させたものもある。
『ノックスの十戒』
推理小説を書く際のルール「ノックスの十戒」については中井英夫「虚無への供物」感想 - どーるの本棚のメモへ
- 作者: 米澤穂信,高野音彦,清水厚
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