米澤穂信「クドリャフカの順番」感想 『十文字』事件
著者
刊行
2005年
あらすじ
ついに始まった神山高校の文化祭(通称"カンヤ祭")。しかし、古典部は手違いにより出品する文集「氷菓」を大量に作りすぎてしまった。そんな中、校内では「十文字」を称する何者かにより連続盗難事件が起きていた。古典部は、この事件を解決することで部の知名度を上げ文集を完売させようと連続盗難事件の真相に迫る。
登場人物
入須冬美・・・2年F組の生徒、『女帝』
田名部治郎・・・総務委員長
河内亜也子・・・漫画研究会部員
谷惟之・・・囲碁部員
遠垣内将司・・・元壁新聞部部長
十文字かほ・・・占い研究会部員
湯浅尚子・・・漫画研究会部長
陸山宗芳・・・生徒会会長
安城春菜・・・元漫画研究会部員
吉野康邦・・・放送部部長
感想
これまでの2冊と比べると少し厚めで、ページ数で言うと『氷菓』(約200ページ)『愚者のエンドロール』(約250ページ)そして『クドリャフカの順番』(約400ページ)となっています。しかしながら、これまで通りとても読みやすく最後まで一気に読めました。
この作品のキーワードは「期待」でしょうか。高校生という子供と大人の境界に立ち"自分"というものを理解し始める頃だからこそ、自分と他人を比較しそこから見える自分と他人の"差"から生じる相手への「期待」と「嫉妬」の間で悩む姿がよく描かれていました。十文字事件の謎も大変面白かったのですが、個人的にはこの他人に対する「期待」をそれぞれがどう解釈しているのかが読んでいて興味深かったです。
さて、今回は奉太郎だけでなく古典部の面々それぞれの視点から描かれています。そのため、キャラクター達の心情や考え方を知ることができ、これまで以上に古典部の面々に愛着が持てました(特に里志が物事を自分自身も含めて冷静に分析していることに驚きました)。
また、この複数視点はこの作品のメインである「文化祭」を多角的に見ることができるという効果もあり、文化祭の盛り上がりが非常によく伝わってきました。そもそも、この作品がこれまで通り奉太郎の視点のみだった場合、部屋からほぼ動くことなくただただ文集を売るという場面ばかりになってしまい、「文化祭」という設定があまり感じられない作品になっていたと思います。
あと、自分の語彙力が少ないのか難しい単語が多く感じ、スマホを片手に分からない言葉はネットで調べながら読みました。非常に読みやすい文章のため難しい単語が際立って見えるのですが、下のメモにも書いた「レゾンデートル」や「エピキュリアン」などの言葉って高校生が使うには少々難しすぎると思うのですが...
さてさて、次は『遠まわりする雛』です。『氷菓』→『愚者のエンドロール』→『クドリャフカの順番』とどんどん面白くなっているので〈古典部〉シリーズ第4弾も読むのがとても楽しみです。特に里志と摩耶花の関係がずっとこのままなのか、それとも進展するのか、そもそも里志は摩耶花の告白を何故はぐらかしているのか、わたし、気になります!
メモ
『レゾンデートル』
レゾンデートル:自身が信じる生きる理由、存在価値を意味するフランス語の「raison d'etre」をカタカナ表記した語。他者の価値と比較して認められる存在価値ではなく、あくまで自己完結した価値を意味する。
『エピキュリアン』
エピキュリアン:快楽主義者。享楽主義者。
『ぎせ焼き』
「ぎせ焼き」については、ネットを使って調べてみると実際に再現されている記事がありましたのでリンクを貼っておきます
私、気になります!アニメ『氷菓』に登場「ぎせ焼き」の再現レシピ | nanapi [ナナピ]
スラップスティック:コメディの一種。体を使ったギャグ。「どたばたギャグ」などとも訳される。チャップリンのそれなどが有名。