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米澤穂信「遠まわりする雛」感想 -初めての経験は、これまで解き得なかった疑問を解く大いなる鍵となる-

 

遠まわりする雛

遠まわりする雛

 

 

著者

米澤穂信

 

刊行

2007年(単行本)

2010年(文庫本)

 

あらすじ

古典部の高校1年1学期から春休みまでの1年間の出来事が描かれており、今回はシリーズ初の短篇集となっています

  • 「やるべきことなら手短に」・・・古典部と秘密倶楽部
  • 「大罪を犯す」・・・古典部と憤怒の罪
  • 「正体見たり」・・・古典部と温泉
  • 「心あたりのある者は」・・・古典部と放送
  • 「あきましておめでとう」・・・古典部と初詣
  • 「手作りチョコレート事件」・・・古典部とバレンタイン
  • 遠まわりする雛」・・・古典部と雛祭り

 

登場人物

 

感想

氷菓』、愚者のエンドロール』、クドリャフカの順番 』 に続く〈古典部〉シリーズ第4弾です。これまではそれぞれ「氷菓事件」、「女帝事件」、「十文字事件」と1つの作品につき1つの大きな謎を軸として物語が展開していきましたが、今回はシリーズ初の短篇集となっています。

 

この〈古典部〉シリーズはミステリーの中でも俗に"日常の謎"と呼ばれるジャンルに入ると思います。この"日常の謎"は、複雑なトリックを使った殺人事件を扱うミステリーとは違い、日常生活の中にある小さな謎を扱うためサクッと読める短編ととても相性が良く感じられました。
 
7つの物語の中でも、ミステリとしては「心あたりのある者は」が、物語としては「手作りチョコレート事件」 がとくに気に入りました。
 
「心あたりのある者は」は、奉太郎とえるの2人が"1つの状況に簡単に理屈をつけられるかを検証するゲーム"として不意に流れた校内放送を聞き、その放送が行われた意図を推理していくというものです。放送はごく短いものだったのですが、それでも奉太郎は見事に推理して(理屈をつけて)いきます。
例えるなら、ホームズが人を見た時にその人がどのような人物なのかを、常人には情報が少なすぎると思ってしまう状況でも見事に推理してしまうようでした。短編とはいえミステリ好きでも充分満足できる話となっていると思います。
 
「手作りチョコレート事件」では、前作『クドリャフカの順番』での里志視点(♦)により、里志が摩耶花に好意を持っているものの摩耶花の告白をはぐらかし続けているという謎が浮上しましたが、その理由が明らかとなります。普段は決して見せないであろう里志の葛藤は新鮮でした。
 
そして、この作品で一番印象に残ったのはこの本のタイトルにもなっている「遠まわりする雛」での
初めての経験は、これまで解き得なかった疑問を解く大いなる鍵となる。
という言葉です。
奉太郎の心情の変化が垣間見え、"灰色"から"薔薇色"に少し近づいたシリーズ第4弾でした。
さて、次作は「ふたりの距離の概算」です。様々な経験をし2年生へと進級した古典部の面々、とくにこの「遠まわりする雛」での奉太郎の心情の変化が古典部にどのような化学変化をもたらすのか楽しみです。
 
あと、普段は原作を読んだのならアニメは見なくてもいいかなと思うのですが、このシリーズは原作を読めば読むほどアニメも見てみたくなってきます。何故だろう…
普通のミステリの場合、謎の答えが分かっていると面白さは半減しますが、〈古典部〉シリーズは"青春小説"として読んでも充分な完成度だからかもしれません。
 
"あとがき"に「心あたりのある者は」と「あきましておめでとう」においてそれぞれおすすめの作品が紹介されており、とりあえず私は「心あたりのある者は」がかなり気に入っているので『九マイルは遠すぎる』を近々読んでみようと思います。
 
「心あたりのある者は」・・・『九マイルは遠すぎる』
九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

 

「あきましておめでとう」 ・・・『十三号独房の問題』

世界短編傑作集 1 (創元推理文庫 100-1)

世界短編傑作集 1 (創元推理文庫 100-1)

 

 

メモ

『アーバン・レジェンド』

フォークロア(アーバン・レジェンド):「都市伝説」という言葉が、日本に登場したのは1988年のジャン・ハロルド・ブルンヴァンの著書『消えるヒッチハイカー』が大月隆寛、重信幸彦ら民俗学者によって訳された、アーバン・レジェンド(Urban Legend)という造語の訳語としての「都市伝説」が最初である。
「都市伝説」という用語が提唱されるまでは、この現象を指し示すために様々な用語が使われていた。「urban belief tales」(都市で信じられる話)、「urban narratives」(都市の体験談)と呼ぶ者もあり、必ずしも「都市」で広まるとは限らないこともあり、伝統的な民話に対して「modern legends」(近現代の伝説)ともいう。社会学者や民俗学者は同様の意味で「contemporary legends」と呼んでいる。
「都市-」(英: urban)という形容詞は、「都市の、都会の」というような地域を示しているのではなく、「都市化した」という意味で使用されている。したがって、その説話が伝統的文化に由来しないものであれば、説話の舞台設定が農山漁村であっても都市伝説と呼ばれる。
ブルンヴァンの『消えるヒッチハイカー』によれば、「都市伝説」の中の「伝説」とは、「話し手がそれを実際にあったできごととして語っている」ことを指すという。また同書の訳者はこの「伝説」を「『世間話』という口承文芸の雑然としたオモチャ箱的ジャンル」とも表現している。
インターネット掲示板・ブログ等に由来するものは、とくにネットロアと呼ばれることもある。ネットロアとは「インターネット」と「フォークロア」から造られたかばん語である。

都市伝説 - Wikipedia

『ちりめん(縮緬)』

ちりめん(縮緬、クレープ織り、仏: crêpe):絹を平織りにして作った織物。
縦糸にはほとんど撚り(より)のない糸を使い、横糸に強い撚りをかけた右より(右回りにねじる)と左より(左回りにねじる)の糸を交互に織ったものである。そのため精練すると布が縮み生地の表面にシボ(凹凸)が現れる。主に高級な呉服や風呂敷に使われる。主なものに、京都府丹後地方の丹後ちりめん、滋賀県長浜市の浜ちりめんがある。現在、京都府丹後地方では原料の糸を絹から綿・化合繊に変えた丹後ちりめんも織られている。

ちりめん - Wikipedia

小紋

小紋(こもん):日本の着物(和服)の種類の一つ。全体に細かい模様が入っていることが名称の由来であり、訪問着、付け下げ等が肩の方が上になるように模様付けされているのに対し、小紋は上下の方向に関係なく模様が入っている。そのため礼装、正装としての着用は出来ない(江戸小紋を除く)。
現在は模様の大きさや密度に関わらず、上下方向関係なく模様が入っている着物は総称して「小紋」という。染めの技法によって「紅型小紋」「絞り小紋」「更紗小紋」など多種多様な小紋が存在する。その中で、主な「小紋」の技法として知られるのは「江戸小紋」「京小紋」「加賀小紋」である。
また礼装の下の普段着に属するものであり、着物の格としての用いられ方もする。

小紋 - Wikipedia

 

遠まわりする雛

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「氷菓」BD-BOX [Blu-ray]

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